2019/6/30 日曜日

「第15回雄郡寮ガレージセール」開催される

Filed under: ブログ — admin @ 12:04:00

               愛媛県更生保護会施設長 松田辰夫
 松山市土居田町における初夏の恒例行事である「第15回雄郡寮ガレージセール」が,去る5月26日(日),愛媛県更生保護会(通称「雄郡寮」)の駐車場,地域交流室及び会議室を会場に,盛大に開催されました。
 このガレージセールは,「雄郡寮と地域の住民との交流を深め,誰もが心豊かに生き,安全な地域社会づくりを目指す。」というコンセプトの下で,当保護会及び松山地区更生保護女性会の主催により,当保護会の事業運営に協力と援助をしてくれている17の機関・団体・個人の参加を得て.バザー等を催して地域住民の方々と触れ合い,当保護会の施設運営及び更生保護に対する理解と協力を深めることを目的として開催されているもので,本年で実に15回を迎えています。
 当日は,五月の晴れ渡った青空の下で,会場の駐車場等は早朝から開場を待つたくさんの来場者で混雑し,当保護会で生活している寮生(被保護者)の立ち直りのための協力や支援等は,このような地域住民の温かい支えや励ましなどによって成り立っていることを強く実感することができました。
 午前9時30分から来賓6人の御挨拶がなされた後,地元の雄新中学校吹奏学部54人による演奏(「平成メガヒットコレクション」,「パブリカ」等3曲)と,本年度から参加されたのぞみ保育園の園児たち19人の踊り(「子ども八木節踊り」)でオープニングして開場となりました。そして,多くの来場者でにぎわう中,善意の,更生保護を支える熱意にあふれた各層の人々による多彩な催事等が行われましたが,その模様を一言で表現すれば,それは,地域に支えられ,地域に根ざした活動が展開されたということであり,地域との共生を実現する上からも,大変有意義なものになり,午後1時30分に盛況のうちに終了しました。
 なお,全寮生19人中の11人がグループに分かれ,駐車場案内及びビンゴゲーム等の応援スタップとして参加しましたが,それぞれ熱心に来場者に対して案内や景品の配付などを行っていました。これらの寮生は,こうした活動を通じて懇切な言葉遣いやマナーを守りながら嬉しそうな表情で対応しており,一人ひとりが地域に受け入れられていることをしっかりと身近に感じ,自立更生に向けた大きな励みになったものと思われます。
 また,今回,初めて来場者からアンケートを取らせていただきましたので,そのうちの幾つかについて,当保護会の広報誌「雄郡寮たより」(第49号 令和元年7月1日発行)に掲載したところです。
 ちなみに,前記のコンセプトは,本ガレージセールの基本理念を更にわかりやすくするため,昨年度(平成30年度)からチラシの中に刷り込んでいるものですが,このことはまた,現在,法務省保護局を中心に議論が行われている「更生保護事業の在り方の見直し」(なかんずく,「更生保護の地域連携の拠点となる方向性」)に関連して言えば,本ガレージセールの会場に充てた地域交流室や会議室等では,そのほかに,地域における保護司会,更生保護女性会,BBS会,協力雇用主会,就労支援事業者機構等の会議や研修会,勉強会,ミニ集会その他の行事等の開催等をはじめ,司法修習生の見学等が行われているなど,更生保護関係機関・団体等との連携・交流を図り,意見を交換する場となっており,当保護会は,正に,「地域連携の拠点」となっていると言っても過言ではありませんことを申し添えます。

 

 

       

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2019/5/31 金曜日

幸 せ の 意 義

Filed under: ブログ — admin @ 15:36:54

              愛媛県更生保護会施設長 松田辰夫
 平成の時代が終わり,令和の時代を迎えて,世間一般が新天皇陛下御即位の国家的慶事等で賑わっている一方で,凄惨な交通犯罪等が発生するなどしていたある日,当更生保護会の一人の寮生(被保護者)が近くのスーパーの店舗内で大金の入っている財布を拾って,サービスカンターに届けていたところ,その翌日に,落とし主から感謝の言葉と御礼の金品が贈られたという出来事がありました。
 彼(40歳代)は,決していわゆる「出来の良い」寮生ではありませんでした。性格や物の考え方に偏りが著しく,対人関係が良くないばかりか,酒は飲むし,門限は守らないなどの問題行動も多く見受けられましたが,しかし,根っからの「不良」でないことは分かっていました。
 ところで,平成の時代がどのような時代であったかについて,各方面の有識者などが種々様々な論評を行っていますが,その一つに「大規模な自然災害」が多数発生した時代であったことが挙げられています。例えば,東日本大震災,熊本地震,西日本豪雨等が発生し,想像を絶する甚大な被害をもたらしたことは記憶に新しいところですが,古くは,雲仙・普賢岳の噴火や阪神・淡路大震災の発生なども思い起こされます。これらの天災事変によって多数の死傷者を出し,大切な人命や財産などが失われたほか,思い出の人々と品々とともに,楽しかった日々の記憶が奪い去られ,その後も深い悲しみを抱かせられ,悩まされている被災者等が多数存在することは,今日なお,新聞,テレビ等で報道がなされているとおりです。
 大切な人や物を失った悲しみ,亡くした痛みは,当事者に癒し難い長い苦しみを与え,いくら年月が経過したからと言って容易には人の心の中から消え去ることはないのでしょう。しかし,失った物,亡くした物が戻ってきたらどうでしょうか。もし,そうなれば,その人が失意のどん底から歓喜の絶頂へと一変するであろうことは,容易に想像されるところでありましょう。
 そう。失った物,亡くした物が戻って来ることがあるのです。前記の彼が届けていた財布が,落とし主の元に戻って来たのです。その時の落とし主の喜びは,いかばかりのことであったでしょう。大金のほかに,クレジットカードや保険証などが入っていたばかりでなく,強い絶望感に陥っていた気持ちが一気に回復したのですから,その喜びたるや,想像してあまりあるものがあります。
 このように,彼は,自分の不当な利益や偽りの喜びよりも,失った人の,亡くした人の喜びや幸せを何よりも優先したのです。拾った財布をねこばばしないで,サービスカウンターに届出をし,落とし主が見つかってその元に戻され,落とし主にひたすら喜んでもらうことに,自分の「幸せの意義」を見出そうとしたのでした。
 その後,彼は,寮則違反で処分されて不自由な寮生活を送っていましたが,それでも規則正しい生活をし,毎日仕事に行き,門限を守るなどしていました。そして,私が当直勤務をしていたある日,仕事から帰って来るや,「お帰りなさい。」と言って出迎えた私に,「施設長,これを職員の皆さんで食べてください。この前の御礼でもらったお金で買ってきました。」と言って,江崎グリコの「パピコ」1箱(ラクトアイス及び氷菓10本入り)を差し出しました。しかしながら,私が,「寮内規則で,こうした物を受け取ることができません。悪いけど返します。」と申し出たところ,「そんなことを言わないで,受け取ってください。施設長や職員さんのお陰で,僕は,徐々に立ち直っているのですから,・・・・・・。」と言い,「どうしてもだめなら,預かっていてください。」と言って,受付窓口のカウンターに置くようにして,自室のある3階へ上がって行きました。
 私は,階段を上がって行く彼の後ろ姿を見送りながら,彼が先の落とし主に感じようとしたと同じように,恐らく私たち職員に自分の「幸せの意義」(すなわち,他の人に喜んでもらうことが自分の幸せになること。)を感じようとしているのだろうと思うと,寮内規則に従って,無下に断ることができませんでした。
 このように,私は,こうした寮生たちとともに,この雄郡寮(愛媛県更生保護会の通称)で生活をし,仕事をしていることを,様々な苦労があるものの,大変うれしく,幸せに感じています。
 しかしその後,残念なことに,彼は,またもや寮内で酒を飲んだのでした。あれほど戒めていた寮内規則を破って,・・・・・・。たかが「規則」と見る向きもありますが,されど「規則」です。寮内規則を守らずしてはその自立更生を期することはあり得ないと言っても過言ではありません。もとより,人間の深層の心理の複雑的,多様的であるのは当然で,彼に,変わろうとして変わり切れない何かがあったことは疑いないところですが,私は,今もって「更生の難しさ」を感じながら,日々更生保護の仕事をしています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2019/4/29 月曜日

あ あ 料 治 統 括

Filed under: ブログ — admin @ 13:25:07

               愛媛県更生保護会施設長 松田辰夫
 犯罪を犯した人たちは,刑務所を出所した時から,仮釈放の対象者として,また,更生緊急保護の対象者として,あるいは,裁判が終わった時から,保護観察付執行猶予者などとして,再び犯罪を犯す可能性がある実社会の中で,社会からの拒絶反応を感じつつ,自助努力により,保護観察を受けながら自立更生の道を歩んでいかなくてはなりませんが,しかし,このようなことは,容易なことではなく,したがって,それら犯罪を犯した人たちが長く苦しい努力を続けていかなければならないことは,疑いないところであろうと思われます。そうした中で,そのような更生への努力を促し,更生を遂げさせるという困難な保護観察の仕事を民間人として行っているのが保護司であり,保護司の委嘱を受けている更生保護施設職員等であります。
 しかし,そうした困難な保護観察に携わることは,時に,心理的に不安定な対象者や危険性の強い対象者に加え,普段経験したことのない厳しい難局などにぶつかると,携わる者自らが気がくじけ,対処方法が分からなくなって,バーンアウトしてしまうことがあります。そのような時に,国家公務員として,民間の更生保護施設職員等をも含む保護司と協働して保護観察を行う国の職員に,更生保護に関する専門的知識及び技術を有する保護観察官がいます。どのような困難な事案等にも背を向けることなく,避けて通れない課題等にも正面から真剣に向き合って,民間人(保護司等)にアドバイスをし,彼らを励まし,勇気づけ,いろんな意味でスーパービジョンを行ってくれる保護観察官が存在することは,言わば当然であるとは言え,本当に有り難く,感謝して余りあるものがあります。専門的な知識と技術とともに豊富な経験を有している保護観察官が,その専門性及び積極性等を発揮し,種々困難で新たな事案等に関して,保護司や更生保護施設職員等を全面的にバックアップしてくれることほど,有り難く心強いことはありません。そして,そのような時にこそ,それら保護司等は,苦労は大きくても,更生保護の仕事に前向きに歩を進めて行こうという気持ちになれるものです。
 この点,本年春の定期人事異動により,松山保護観察所から高知保護観察所に転勤された料治謙一郞統括保護観察官(50歳。以下「料治統括」という。なお,転勤後の役職は企画調整課長。)も,また,そうした保護観察官の一人でした。
 ところで,当保護会(収容保護定員は20人)は,前年度(平成30年度)に収容保護率91.2%を記録しました。この過去最高の実績は,一人でも多くの被保護者を受け入れて,真に更生保護にふさわしい仕事を遂行することを目的に,全職員が一丸となって取り組んだ成果であり,全国的にも高い評価を受けました。しかしながら,このことはまた,私の立場から言えば,指導監督官庁である松山保護観察所,とりわけ,実際の担当者である料治統括の御指導なくしては,成し遂げられなかったところです。
 更生保護とは何か,私たちは何のためにこの仕事に就いているのか,一人の被保護者(元犯罪者及び非行少年等)と向き合う姿勢はどうあるべきか,苦労は誰のためにするのか,道を誤った被保護者に正常な社会性の回復を図らせるための仕事に従事する者は,どのような考え方を持ち,どのように行動しなければならないか,地域社会が全ての人々にとって(もとより,元犯罪者等にとっても)安全で住み良い社会となるために,今,ここにいる被保護者一人ひとりの問題性の解決に取り組み,地域の人々が彼らを理解して受け入れてくれるようになるために,私たち更生保護の実務に携わる者は,一つひとつの事案(ケース)をいい加減に扱わず,常に真剣でなければならないことなどを,料治統括は高い志を持って,いつも考えておられました。そして,そのような考え方と似通った私の考え方及び仕事の仕方とその方向性等を常に理解し,尊重し,後押しをしてくれました。このことをあわせ考えると,前記の収容保護率の実績は,ひとえに料治統括のお陰であると言っても過言ではありません。
 このような料治統括と出会って,1年6か月間一緒になって,職員ともども,幾多の問題を克服しながら,幾多の困難な時期を乗り越えて,当保護会が大きく発展と飛躍を遂げていくための仕事ができたことをうれしく思うとともに,大変有り難く思っています。そして,万感の思いを込めて,「ああ料治統括」という感謝の言葉を贈ります。ありがとうございました。新任地での更なる御活躍を祈念いたしております。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2019/3/26 火曜日

「雄郡寮ふれあい歌謡ショー」開催される

Filed under: ブログ — admin @ 13:39:27

               愛媛県更生保護会施設長 松田辰夫
 去る2月24日(日)午前10時から午前11時50分まで,当保護会の地域交流室において,「雄郡寮ふれあい歌謡ショー」が開催されました。なお,ここで「雄群寮」とは,愛媛県更生保護会の通称であることを申し添えます。
 この歌謡ショーは,プロ歌手2人をお招きし,地域住民の参加を得て,当保護会の寮生(被保護者)が,それら住民とともにカラオケで歌を歌い,楽しみ,触れ合うなどして,地域社会との交流を深めることにより,地域社会の中に彼らの立ち直りの支援の輪が一層広がっていくことを目指して,企画したものです。言うまでもなく,刑務所出所者等の,更生保護を受けている被保護者に対しては,その自立更生を完成させるためには,ひとり更生保護関係者の力だけで足りるものではなく,広く地域社会や一般社会の理解と協力を得ることが必要不可欠だからです。
 当日は,約70人を超える地域の多くの人々が参加し,地域交流室は身動きする余地がないほどに満員となりました。そして,これらの人々によって,次のように盛大に開催され,大変意義深いものになりました。
 まず,地域住民及び寮生等13人による13曲の歌が披露され,その後,キングフォンレコードプロ所属歌手の自称「浪曲育ち」の山本安輝さんと,同じく「演歌姫」の茜つばきさんが10曲を歌われましたが,1曲ごとに参加者から盛んに拍手が送られるなど,正に「ふれあい」そのものでした。とりわけ,参加した寮生10人の代表者1人と元寮生1人が歌っているときは,会場にはその歌声にじっくりと耳を傾けて聞き入っている多くの参加者の姿があり,歌い終わったときには,一段と大きな拍手が送られましたが,その拍手が彼ら2人の自立更生を支援する大きなエールのように聞こえたのは,私だけだったでしょうか。当保護会は,こういった多くの地域住民によって支えられていることを改めて実感させられました。
 ここで参考までに,前記プロ歌手の2人について若干付言しますと,私が,彼ら2人と出会ったのは,平成23年度の長崎刑務所においてでした。私は,同年度,同所において処遇部長として勤務していましたが,当時,私は,高齢受刑者及び障害を有する受刑者の円滑な社会復帰を図ることをねらいとして,全国の刑事施設に先駆けて,「長崎刑務所における高齢受刑者等に対する社会復帰支援指導」の実施に着手したところでした(この,他にその例をみない独自の取組は,マスコミ等から「長崎方式」などと呼ばれました。)。その実施プログラムの二つの柱は,「社会復帰に資する知識等の付与」と「社会復帰に資する能力等の開発」でしたが,後者の指導内容の一つとして,「音楽療法(カラオケ音楽療法)」を取り上げ,カラオケ講座を開設し,これを通じて,高齢受刑者等が,出所後の地域社会において,カラオケ大会その他住民が参加する様々な行事に進んで参加する意欲を喚起し,ひいては,社会適応性をかん養することを目的としてプログラム化したもので,その実施を担当していただいたのが,長崎刑務所篤志面接委員の山本安輝さんでした。以来,山本安輝さんとその愛弟子の茜つばきさんには,その翌年度に私が転勤した高松刑務所をはじめ,幾つかの刑事施設にお越しいただいて慰問を行っていただき,たくさんの受刑者に感動を与え,更生意欲を高めていただきました。その後,私は,矯正の仕事を終わり,更生保護の仕事を始めましたが,彼らとの交友は,現在もなお続いています。
 ところで,この度の歌謡ショーを通じて,寮生や元寮生は,地域住民から「ソーシャルインクルージョン(社会的包摂)」を,簡単に言えば,自分たちが受け入れられ支えられていることを実感し,その一方で,参加者からは,寮生や元寮生に対する温かい思いやりが示されたことはもとよりですが,参加されなかったものの,この企画の広報に接した地元のより多くの人々からは,これから,当保護会及び更生保護に対する関心が高まっていくことが期待されることろです。
 ちなみに,地域交流室等を会場にした毎年5月に開催の「雄郡寮ガレージセール」以外に,このようにたくさんの地域住民が地域交流室に集まってくれ,しかも,歌謡ショーを開催したことは,恐らく,今回が初めてのことでした。
 歌謡ショー終了後,参加した地域住民からは,「本当に楽しかった。十分に楽しませてもらいました。」,「寮生の方も歌が大変上手ですね。」,「私たちは,寮生の人たちと今日のようなお付き合いをしたかったの。ありがとうござました。」,「雄郡寮が,このように地元のカラオケ仲間の集まりの場になるなんて,考えてもいなかった。施設長さん,これからも頑張ってくださいね。」,「また,開催してくださいよ。期待していますので,・・・・・・。」などの声が寄せられました。

 

 

2019/2/28 木曜日

司法修習生の感想文

Filed under: ブログ — admin @ 13:33:04

              愛媛県更生保護会施設長 松田辰夫
 平成24年7月に犯罪対策閣僚会議が「再犯防止に向けた総合対策」を決定しました。当時,私は,高松刑務所で処遇部長として勤務していましたが,この画期的な再犯防止対策の出現に胸を躍らせたことを今でも覚えています。しかしながら,その後,矯正とそれに続く更生保護の仕事をしていく中で,この総合対策の中の重点的な施策である「居場所」と「出番」の確保,つまり,「住居の確保」と「就労の確保」だけでは,再犯の防止は実現しないのではないか,何かが不足しているのではないかと考え続け,その結論として,私は,その不足を補うものとして,「自己肯定感」を高めるための取組を行う必要があるということに思い至りました。
 以来,私は,その取組方法を開発し実践してきました。そして,当保護会の施設長として,見学に来られる司法修習生をはじめ,保護司,更生保護女性会会員,大学生など様々な方に,再犯防止対策上の「自己肯定感」を高めることとその重要性・必要性について説明をし,理解に資するためにさらなる強調を行っている次第です。
 こうしたことから,本年1月30日(水)に見学に来られた「第72期司法修習生(第2班)」の方々に対しても,更生保護の理念や制度,施設運営の概況等について説明をし,その後に,前記の「「自己肯定感」を高めること」及びその取組についての具体的,専門的な説明をしたところ,司法修習生全員から多大な共感をしていただいた上,後日,松山地方検察庁を通じて,以下のような感想文が送付されてきましたので,その全文を掲載して,皆様方の参考に供することとします。

 そして,皆様方にも,これら司法修習生の感想文に見られるように,刑務所出所者等の立ち直りのために必要な「自己肯定感」を高めることに関する理解と関心を深めていただければ幸いに存じます。
 なお,感想文中の「雄郡寮」は,愛媛県更生保護会の通称であることを申し添えます。

 

   更生保護施設を見学して
                  第72期司法修習生 W
 1月30日水曜日,松山地方検察庁に配属中の修習生4名で,愛媛県更生保護会の保護施設「雄郡寮」を訪問させて頂きました。
 施設見学に先立ち,松田辰夫施設長から,施設の沿革や寮生の生活についてお話し頂きました。刑務官としての長年のご経験の後,「塀の中だけでは更生は実現しない」という思いから社会福祉士の資格を取得され,現職に就くに至ったという松田施設長ご自身の経歴や,施設の運営理念を伺い,日々受刑者の真の社会復帰のためには何が必要かということを批判的精神を持って考察してこられ,安全かつ安心な社会の実現への貢献をご自身の人生をもって実践してこられた松田施設長の深く温かな社会へのまなざしと強い信念に,大変感銘を受けました。
 また,施設内を見学させて頂いた際には,丁度食堂で調理員の方が夕食を作っておられ,調理員の女性の方の明るい表情や,作りたての食事の香りから,家庭的で大変穏やかで温かな雰囲気を感じました。
 松田施設長のお話のなかで,真の更生のためには「居場所」と「出番」に加えて「自己肯定感」が必要である,というお言葉が大変印象深く心に残りました。雄郡寮では寮生が多様な世代の地域住民と交流する機会が持たれており,なかでも特に,寮生が地域住民とともに農園作業に取り組むという創造的な試みは,まさしく,寮生が少しでも自己肯定感を獲得できることを目指すという施設の理念の実践であると思います。他者と共同して作業をする機会があることは,施設での生活と社会復帰後の生活の間隙を小さくし,被保護者の社会への適応を円滑化するうえで非常に本質的な意義を持つものであると感じました。
 雄郡寮におけるこうした様々な取組とその趣旨について学び,考えるなかで,個人の存在意義の自覚にとって根源的なものは,他者に必要とされている,他者に受け入れられているという実感であり,そのような実感は,規律を遵守した勤勉で清貧な生活態度だけでなく,他者との心通った交流があって初めて得ることができるものであると改めて強く認識しました。更生保護制度がいかなるものであるべきかを考えることは,究極的には人間にとっての幸福とは何であるのか,一人一人が幸福に生きることのできる社会の実現のために本質的に必要なことは何であるのかを考えることに通じるものであると感じます。そして,そのような考察の際に最も重要なことは,他者の考えや立場を尊重し,慮ることであると考えます。雄郡寮の施設運営の基調として「寄り添い,傾聴,受容」という視点が置かれているのは,他者理解の根底にあるべき精神を真摯に探求してこられた結果であると感じました。
 法曹という社会と深く関わる職に就く者として,社会に対する洞察と思索を深め,他者の心情や立場への想像を絶やすことなく,個々の事案に向き合ってゆきたいという思いを新たにしました。
 お忙しいところ,かけがえのない貴重な経験をさせて頂き,誠にありがとうございました。

 

   雄郡寮の見学により学んだこと
                  第72期司法修習生 X
 更生保護施設雄郡寮の見学を通じて,松田施設長の社会福祉への情熱と実際に更生保護施設がどのように運用されているのかを学ぶことができました。
 刑務官のご経験のある松田施設長のお話を聞き,印象に残ったことは2点あります。まず,更生保護施設は刑務所と同じく社会復帰や社会的更生を目的の一部としていますが,刑務所と異なり社会生活を営むことができることに意味があることを教えていただきました。例えばアルコール依存症の人がいる場合,強制的にアルコールを窃取できない環境とすれば摂取することはなくなります。ただし,強制的に更生できたとしてもその環境の外へ出た時に再びアルコール依存となる危険があります。一方,更生保護施設は社会の中で一般の方と同じように生活するため,アルコールが自由に手に入ります。更生保護施設は無理矢理依存対象を奪うのではなく,アルコール依存防止教育や施設の職員との生活の共同により,社会生活の中で依存対象と共存できるよう更生を促すことを教えていただきました。松田施設長のお話の中で強制することのない社会福祉のあり方を教えていただきました。
 二つ目として,施設利用者の再犯の防止のために自己肯定感を芽生えさせることを大事にしていることを教えていただきました。施設利用者は少なからず社会から常に偏見の目で見られており,その偏見が社会復帰への壁になるそうです。その社会復帰への壁を越えることができず,再犯をしてしまう人がいるということを教えていただきました。松田施設長は福祉の視点に立つ更生保護を実現するため,施設利用者の話を傾聴し,同じ目線で話を聞くことを大事にしているそうです。その中で施設利用者が社会に何を求めているのか,どのように役に立ちたいのかを一生懸命聞き,共に行動に移すことで利用者の自己肯定感を育むそうです。自己肯定感が芽生えることにより社会の一員であることを実感し,社会の役に立っているという気持ちが再犯の防止へと繋がっていることを学びました。
 最後に雄郡寮の中を見学し,利用者の方の生活環境を知ることができました。寮内はとても綺麗で生活しやすい様な印象でした。また喫煙スペースや談話コーナー,地域交流室等があり,施設の中で生活するだけではなく社会とのつながりを持つための環境が整っているように感じました。
 雄郡寮の見学を通じ,施設利用者の更生のために社会との繋がりを大事にしていることを知ることができました。このような貴重な機会をいただきましたことを非常に感謝しています。

 

   更生保護施設を見学して
                  第72期司法修習生 Y
 平成31年1月30日(水),更生保護施設を見学させていただいた。
 更生保護施設は「雄郡寮」という名前で,松山市の土居田町にある。雄郡寮は,犯罪を犯してしまった者達が更生できるように,居所,食事,生活,就労支援等を無料で支援する施設である。そうすることで,再犯の予防に繋がり,個人及び公共の福祉を増進するという,更生保護の目的の達成を促進する役割を担っている。そこには,見学当時,17人の罪を犯してしまった者や非行少年らが暮らしていた。
 私達が施設に到着すると,施設長の松田辰夫さんが迎えてくれた。そして,松田さんから,雄郡寮や更生保護についての説明があった。その際に松田さんが「偏見で人は崩れる,交流で人は変わる。」と仰っていたのがとても印象的だった。
 また,同施設では,地域のイベント参加や,菜園活動など,積極的に地域社会との交流をしているとのことだった。何らかの理由で地域社会の外に出てしまった者達が,地域社会の人の協力によって,また地域社会に復帰するというのは,とても素晴らしいことだと感銘を受けた。
 松田さんの説明の後,施設を案内して頂いた。まず始めに,食堂を見せて頂き,その後に居室,浴場,洗濯場,休憩スペース,地域交流室に案内して頂いた。施設内はとても新しく綺麗で,清潔感があった。また,各部屋にテレビがあったり,漫画なども置かれていたりして,生活感があった。社会内での更生という目的から,一般的な暮らしとの齟齬が少ないように工夫しているんだなと感じた。
 わたしは,犯罪者の再犯率はとても高いと聞いたことがあった。そのため私は,更生保護の制度が不十分でないかと思っていた。現場のサポートが足りないのではないかと考えることもあった。しかし,施設を見学してみると,施設長の松田さんは本当に熱心に更生保護を受ける者達のことを考えておられたし,更生保護を受ける者達も,挨拶を交わすなど,温和な印象を受けた。この人達が再犯に走るだろうとは微塵も感じなかった。
 他方で,このような手厚いサポートがあり,深く反省して更生を目指しながらも,また再犯をしてしまう人が常にいるのは何故だろうと,疑問が深まった。この点に関しては,更生保護の制度だけではなく,教育制度,医療制度,刑事政策などの諸制度も深く関わって,1つの制度だけが上手く運用できても,解決しない問題なのかもしれない。
 そして,見学を通して,私自身にも,罪を犯した者達に対する偏見が,無意識のうちにあったかも知れないと思った。そのような一人一人の無意識が,更生を妨げるのかもしれない。
 「偏見で人は崩れる,交流で人は変わる。」帰りの車の中で,その言葉のことをずっと考えていた。
 松田さんを始めとする,更生保護施設の見学にご協力,ご支援頂いた方々に感謝致します。

 

   雄郡寮を見学して
                  第72期司法修習生 Z
 このたびは,お忙しい中,大変親切なご案内ご説明を頂戴しながら,雄郡寮を見学させていただき誠にありがとうございました。
 見学をさせていただき,日々の施設運営と取組をされる重要性と責任とを心に刻ませていただきました。
 私が,学んでいた大学の施設と同じ建物に,更生保護施設があったこともあり,更生保護施設自体は身近に思っていましたが,その中を見学させていただいたことは初めての経験であり,とても勉強をさせていただきました。
 施設長のこれまでの様々な高齢受刑者や福祉を要する受刑者に対する施策を実施されてきたご経験を伺い,お年を召された方や,障がいをもたれている方が施設や地域等で生活していこうとするにあたって,直面される苦労や壁を知りました。
 また,雄郡寮の役割として社会における居場所や出番の他に,自己肯定感が必要であると伺ったことや地域の祭りにおいて太鼓を演奏し拍手喝采を受けた寮生のエピソードに,大変感銘を受けました。
 入寮以前の生活において不足しがちであったかもしれない自己肯定感,すなわち,人間の生命維持のための欲求であるとか経済的な損得を超えた,他者に対して自分が役に立っているという認知を求めようとする心理のことをプラトンは気概と呼びましたが,そのような気概を育むとともに,そのような気持ちをもって一日一日を努力していけば,報われるところがあることを体感することができる学び舎として,雄郡寮はすばらしい場所であると思っております。
 施設の点でも,あたたかな食堂や,寮生同士,あるいは地域の方々と触れ合うことのできるホールや畑があり,人の点でも,訪問させていただいた際,寮生の方に挨拶をいただいたり,事務室の方と話し込んでおられたりという家庭的な環境や更生保護女性会の方や寿会を始めとする皆様が温かく寮生を包み込んでくださる環境があるように拝見しました。このような環境があってこそ,寮生の方々の更生や生活の安定が実現されてゆくことを,実感致しました。
 今回見学させていただいた体験を,今後,法曹として活動してゆくにあたって,最大限生かしていきたいと考えております。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2019/1/31 木曜日

「愛媛県更生保護会会員制度」創設される

Filed under: ブログ — admin @ 13:56:22

               愛媛県更生保護会施設長 松田辰夫
 御承知のように,平成28年12月に「再犯の防止等の推進に関する法律」が施行され,更生保護事業は,大きな変換期を迎えることとなりました。とりわけ,この法律の下で,これからの更生保護の諸活動を,国,地方公共団体,そして,国民(すなわち,地域住民)の一人ひとりが主体となって行うことになったことは,非常に画期的なことでした。さらに,翌29年12月に閣議決定された「再犯防止推進計画」では,①更生保護施設における受入れ・処遇機能の充実,②高齢者又は障害のある者等への支援等,薬物依存を有する者への支援等,③更生保護施設による再犯防止活動の促進等,など更生保護施設として取り組んでいかなければならない課題が明確となり,当保護会においても,これらの課題に積極的に取り組むこととなりました。
 そこで,これらの課題に対応するために,当保護会においては,被保護者に対し,上記の①の充実を図り,②の支援等を行って,③の促進等に取り組むことを目的として,「高齢者等生きがいづくり農園作業」及び「依存症改善プログラム」等を実施することとすることとし,併せて,経済的な自立に向けた就労を支援するのに必要な「通勤用自転車」,「作業服」等を購入し補充していく必要があることから,これらの実施に要する運営資金及び講師謝金等とともに,購入費等の支出に要する経費を確保していくこととしました。しかしながら,これらを国の委託費だけで賄うことには,到底限界があることから,このような会員制度の創設を行うに至ったものであります。
 つきましては,皆様方に当保護会の会員(年会費は,法人の場合一口1万円,個人の場合一口5千円です。)となっていただき,御寄附を賜ることにより,上記の課題に取り組んでいく上で必要な御理解と御支援をお願いしたく存じますので,よろしくお願いいたします。
 なお,すでに10を超える個人・法人の方々が会員登録をされていますが,これらのうちには,愛媛県更生保護会協力雇用主会“寿”会に所属する企業に勤める元寮生4人が会員登録を申し出るなどの美談が含まれていることを申し添えておきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2018/12/28 金曜日

「みかん1000箱運動」始まる

Filed under: ブログ — admin @ 14:56:01

                愛媛県更生保護会施設長 松田辰夫
 いよいよ,私たちの“夢”が大きく開き始めました。「みかん1000箱運動」が始まったのです。
 この運動は,愛媛県更生保護女性連盟の主催によるものですが,愛媛県更生保護会がその提案をし,その実施に当たって,全面的に協力をしているものです。
 この12月に,来年からの本格的実施に向けて試行的に実施したところ,何と,同月28日(水)の時点で,157箱の愛媛県産の「みかん」が,後出の“メッセージ”(はがきサイズ)とともに,北は北海道から南は沖縄まで送り届けられるところとなり,この運動に賭ける愛媛県更生保護女性連盟の意気込みが強く感じられました。
 しかし,そもそも「みかん1000箱運動」とは,どのようなもので,また,なぜ,そのような運動を始めることになったのでしょうか。このことを説明するには,私が,本年3月31日(土)付けの「えひめ更女だより(第12号)」(愛媛県更生保護女性連盟発行)に寄稿した,愛媛県更生保護女性連盟会員の皆様向けの「夢は“えひめ更女”から」と題する文書を紹介するのが適当であろうと考えられますので,当該文書を次のとおり掲載することとします。
 この運動に対する皆様方の御理解と御関心を深めていただく上で,何程かのお役に立てれば幸いです。
                 記
 (前略) この「みかん1000箱運動」(仮称)事業については,昨年(平成29年)9月に提案させていただいたものですが,その趣旨は,皆様方に,一昨年(平成28年)12月に施行された「再犯の防止等の推進に関する法律」の下で,更生保護女性会の全国的なネットワークを活用して,更生保護思想の更なる普及・高揚を図るための,新たな試みとなる事業を始めていただきたくおもんばかって,提案させていただいたものです。つまり,愛媛県の特産物である「みかん」は,従来から広く全国各地の人々に贈答されていますが,今後は,皆様方が愛媛県の「みかん」を贈答するに際し,その贈答箱の中に更生保護のメッセージを入れて贈答し,より多くの人々に,愛媛県の「みかん」を味わってもらいながらそのメッセージを読んでいただき,更生保護に対する関心と理解を深めていただこうと考えたものです。更生保護活動の大きな発展に希望を与える事業にほかなりません。
 本年は,前記の法律の下で,各地方公共団体における「地方再犯防止推進計画」の策定が本格化する年でありますので,更生保護の長い歳月の課題であった“地域社会に根ざした更生保護”が一気に実現化する年になることでありましょう。皆様方と私たちの「夢」が大きく膨らんでいく年であると言えましょう。愛媛県の「みかん」の一つひとつに皆様方一人ひとりの「更生保護」の熱意を込めて全国津々浦々にまで届けることによって,心と心のネットワークで結ばれた「更生保護」の理解者や支援者などを次々と増やしていく絶好の機会でありますので,こうした「夢」に,全国の更生保護女性会に先駆けて取り組んでいきましょう。正に,「夢は“えひめ更女”から」であります。

 この運動の趣旨等は,以上のとおりですが,本文中の“メッセージ”の表面は,別掲の写真のとおりです。
 (注)なお,参考までに紹介しますと,“メッセージ”裏面の文面は,「平成28年12月に「再犯の防止等の推進に関する法律」が施行され,この法律の下で,これからの更生保護の諸活動は,国,地方自治体,そして,国民の一人ひとりが主体となって行うことになりました。こうしたことから,私たち愛媛県更生保護女性連盟では,多くの方々に更生保護の重要性と必要性を知っていただくために,新たな試みとして,「みかん1000箱運動」を始めました。
 愛媛県の特産物である「みかん」の一つひとつに,私たち一人ひとりの更生保護の熱意を込めて,全国津々浦々までお届けいたします。愛媛県の「みかん」を味わっていただきながら,更生保護に対する関心と理解を深めていただければ,幸いに存じます。
            愛媛県更生保護女性連盟一同  」としました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2018/11/30 金曜日

「高齢者等生きがいづくり農園作業」始まる

Filed under: ブログ — admin @ 15:32:28

               愛媛県更生保護会施設長 松田辰夫
 今日,我が国では,高齢犯罪者及び障害犯罪者の再犯率の高さが社会問題となっていますが,そうした状況の中で,この度,愛媛県更生保護会(通称「雄郡寮」。以下「当保護会」という。)において,「高齢者等生きがいづくり農園作業」を始めました。この「農園作業」は,地域の保護司会会長,更生保護女性会,近隣住民の御協力を得て,当保護会の被保護者のうち,一般就労が困難な高齢者及び障害者等に対する自立更生を促進するための,新しい試みとして始めたものです。なお,農園の名称は,「ふれあい農園ひまわり(雄郡寮)」です。
 この新しい試みは,これまで住居支援と就労支援を中心に運営されてきた全国の更生保護施設において,最近の刑事施設の収容状況等を反映して,とみに,就労ができない高齢者や障害者等の帰住が増加しており,当保護会もその例外ではないことから,それらの者の再犯防止と自立を効果的に図るためにどのような処遇方法が必要であるかという観点から,「平成30年度愛媛県更生保護会事業計画」の一環として,考えたものです。
 つまり,就労ができず,老後や将来への希望が持てない,高齢・障害犯罪者等であった人たちを受け入れて保護し,一定期間,生活指導その他必要な補導援護を行った後,福祉的支援として生活保護の受給,福祉施設への入所等につなげるというだけの,従来の処遇方法では,真の根本的解決にはなり得ないことはすでに知られているところで,それゆえ,それらの者が当保護会に在会している間に,過去の経験のあるなしにかかわらず,農園作業(野菜づくり等)を通じて新たな生きがい,すなわち,生きる意欲につながる生きがいを見いだし,地域の住民と触れ合っていく中から,自力で更生を遂げていくことを目的とした,根本的対策を立てることとした次第です。言うまでもなく,農園作業では,身体を動かし,土に触れ,野菜等を育て,収穫の喜びと食事の幸せを実感できるほか,仲間や地域の住民と共通の野菜づくり等を通じて,いわゆる「農園コミュニティ」が生まれ,人生が豊かになるという良さがあります。これが,高年齢等の被保護者に大きな変容をもたらすであろうことは,想像に難くありません。
 そして,在会中に農園作業を経験・再経験した後は,彼らに,退会後に生活保護を受けながら農家の手伝いや農作業のパート等に就労できるように支援することによって,換言すれば,「居場所」と「出番」と「生きがいづくり」を確保してやることによって,再犯防止と着実な更生につなげていくよう取り組むこととしています。さらに言えば,近年,農家の高齢化等により,農業の担い手不足が深刻な社会問題化していますが,当保護会の農園作業従事者の労働力が,その問題の解決のために少しでも役立つようなことになるならば,再犯の防止と農家の衰退という二つの社会問題の解決に大きな希望が見いだされるはずであり,画期的な取組となることでありましょう。
 なお,この農園作業の開始から初回収穫に至るまでの経過について述べなければなりませんが,今回のBLOGでは,以下に,その経過を示す写真を掲載するにとどめ,次回以降において,その概要を記述して紹介することとします。

 

  除草前の農耕地(H30.5.1(火))

 

  農耕地の除草(H30.8.5(土))

 

  農耕地の耕運(H30.8.31(金))

 

  種植え・苗植え(H30.10.11(木))

 

  野菜の初回収穫(H30.11.15(木))

 

  看板&地元更生保護女性会・住民(H30.10.14(水))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2018/10/31 水曜日

司法修習生の感想文

Filed under: ブログ — admin @ 11:28:26

             愛媛県更生保護会施設長 松田辰夫
 今回は,本年7月18日(水)に司法修習生4人による施設見学がなされた後,4人から提出された感想文を,松山地方検察庁の了承を得て掲載させていただきます。
 ところで,去る8月7日(火)掲載の本BLOG「司法修習生の感想文」において,私は,「この度の施設見学が,彼ら(司法修習生の意)の更生保護についての関心を高め,刑事司法の分野の総仕上げとも言うべき最後の段階である更生保護の重要性及び必要性についての理解を深めるために何程かの寄与をなし得たとすれば,望外の幸いです。」と書きました。この「刑事司法の分野の総仕上げとも言うべき最後の段階である更生保護」の意味するところについて,以下,私の考えを更に詳しく説明します。
 刑事司法の基本的な構成が,警察,検察,裁判,矯正及び更生保護の各分野,あるいは,各段階から成っていることは,御承知のとおりですが,こうした構成の中で,各機関がそれぞれの役割を十全に遂行することによって,犯罪や非行のない「安全で安心して暮らせる社会の実現に寄与する」(再犯の防止等の推進に関する法律(平成28年法律第104号)第1条)ということは,とりも直さず,各機関がそれぞれ刑事司法の一翼を担いつつ,刑事司法の目的を達成するために,犯罪者・非行少年の犯罪・非行から自立更生へと,段階的に,それぞれが五つの役割を果たしている刑事司法制度の一環としてとらえることができます。現代の刑事司法の実際は,このような段階の思潮を基礎とした運用が図られています。その意味で,刑事司法の最終段階において,再犯・再非行の防止等の役割を担っている更生保護が,その役割を果たし,刑務所出所者や少年院出院者等が自らの罪を真摯に反省し,これを償い,更生を遂げるよう援助することはもとより,それらの者が犯罪や非行に至った原因や問題を解決し,これを克服して健全な社会人として再出発させるよう援助し,それによって,新たな犯罪や非行の発生を予防し,犯罪被害者を生まない安全・安心な社会を作ることが,更生保護の役割(任務)であってみれば,更生保護は,犯罪者や非行少年の立ち直りを完成させる,正に「刑事司法の分野の総仕上げ」というにふさわしいものでありましょう。
 顧みますと,私は,前職の41年間に及ぶ刑務官の時代の,その若き日に,好んで幾つかの言葉を愛唱していましたが,その一つに,「ホルツエンドルフは、「処刑は唯だ形式のみ、之に意義を与ふるものは行刑即ち是れなり」“Der Urteil der Strafe ist nur die Form,der Vollzng giebt den Inholt” Holtzendorffと謂ふて居る。(中略)刑法及び裁判の運命は、一に係って監獄制度の適否如何にありとも謂い得らるるのである。」(小河滋次郞著「監獄法講義」による。)というのがありましたが,その頃の私は,この言葉をよりどころとして,受刑者の改善更生及び社会復帰を図ることに,その職業の価値と自分の人生の意義を見い出していました。そして,現在はこの言葉を少しアレンジし,愛媛県更生保護会の施設長として,「処刑は唯だ形式のみ、之に意義を与ふるものは更生保護即ち是れなり」,「刑法及び裁判の運命は、一に係って更生保護制度の適否如何にありとも謂い得らるるのである。」と自負し,標ぼうしている次第です。
 なお,以下の感想文中の「雄郡寮」は,愛媛県更生保護会の通称であることを申し添えます。

 

   更生保護施設を見学して
                 第71期司法修習生 S
 私たちは,松田辰夫施設長の案内により,更生保護施設“雄郡寮”を見学させていただいた。
 まず,施設長のお話を伺った。再犯を防止するために何ができるのか,それを話す施設長の顔はとても生き生きとしていた。罪を犯した者の更生には,①居場所,②出番に加え,③自己肯定感を高めることが必要であるとの考えを聞いた。なるほど,私には自己肯定感という着眼点はなかったが,傍聴した事件を振り返ると,何か自分の人生を悲観しているような,半ば諦めているような被告人は少なくなかったように感じる。
 次に,施設の中を見学させていただいた。雄郡寮は,木の温かみを感じる建物であった。見学の途中,職員の方や食事を給仕する女性とすれ違い,挨拶をした。また,施設長と楽しそうに話す入寮者の姿を見た。人の温かみを感じた。そうか,これが施設長の考える居場所ということなのだろう。帰る場所,帰りたい場所があることの安心感は,何事にも代えられないということを考えさせられた。
 刑事裁判において,被告人に科せられる刑が言い渡される。検察や裁判所,多くの被害者は,裁判が終われば被告人と関わることはほとんどない。
 しかし,被告人も,社会の構成員の1人である。懲役刑を言い渡され,刑務所へ入ることとなっても,いずれは刑務所から出所し,私たちと同じ社会で生活していかなければならない。「犯罪者」に対して厳しい目が向けられる現代の世の中において,犯罪や非行をした人たちとの再出発は簡単でない。そのような人たちを一定期間保護し,円滑な社会復帰を助けて再犯を防止する役割を担うのが,更生保護施設である。
 そして,そのような施設を活用し,運用していくためには,更生保護に向けて取り組む職員やそれを受け入れる地域社会が必要である。住宅街の中に溶け込んだ雄郡寮は,松田施設長をはじめとする熱意ある職員の方々とともに,これからも安全で安心の社会を実現していくのだと確信した。

   更生保護施設と地域の融和
                 第71期司法修習生 T
 一般に更生保護施設とはどのような場所というイメージがあるだろうか。
 私は,刑務所と同じようにどこかひっそりと山奥に佇んでいるようなイメージを抱いていた。
 しかし,雄郡寮は住宅街の真ん中にそびえ立っていた。建物の外観だけを見れば公民館かと通り過ぎてしまうほどに周囲に溶け込んでいた。この雄郡寮の外観はまさに,施設長の地域との融和の思いを示しているように思えた。
 「居場所(住居)と出番(仕事)を与えるだけでは更生には不十分。自己肯定感を与えることが更生には必要。」だという施設長のお話が特に印象に残っている。
 社会からの孤立は再犯の原因である。地域住民の方に受け入れられているということが入寮者の自信に繋がり,今後の生活において周囲の人に溶け込むことに積極的になることで,社会からの孤立を防ぐことができる。入寮者が自己肯定感を得るための取り組みとして,雄郡寮では地域行事への参加や奉仕作業など,地域住民の方との交流を図る機会も多く設けられていた。
 このような地域に根ざした更生保護の取り組みは,更生には必要なものではあるものの,地域住民の方の理解と協力がなければ実現が難しいものである。
 雄郡寮で地域の方との交流を図る取り組みができているのも,地域住民の方の協力があってこそのものであると感じ,更生保護制度における社会の理解,協力の重要性を再認識した。
 また,雄郡寮には障害を持った入寮者もいる。障害を持った入寮者に対しては,1人1人と強みを引き出せるようにその入寮者の個性に応じた取り組みをしているというお話を施設長から伺った。
 1人1人の個性,性質に応じた処遇を限られた人材の中で実行することは難しいことであるが,雄郡寮では1人1人の個性,性質を踏まえた上で,その人が今後社会で更生していくために真に何が必要かという点を考え,職員の皆さんが真剣に入寮者の更生に取り組んでいることを今回の見学を通じて感じた。

   更生保護施設を見学して
                 第71期司法修習生 U
 司法の道を志してから司法試験に合格するまでは,勉学が中心の日々であり,実務に携わる人々が何をしているのか,どのような人々が関わっているのかを具体的にイメージする機会になかなか恵まれなかった。更生保護施設を見学する前は,その文字からして,更生保護施設に入る人は何らかの犯罪行為を行った人であり,施設内の様子についても刑務所と同じような暗いイメージを抱いていた。しかし,実際に見学してみると,更生保護施設自体の構造が刑務所とは異なり明るく開放的なものであり,刑務所ほど厳格な監視体制もなかったことに加え,職員の方々が,更生保護対象者に対して,①居場所,②出番,③自己肯定感(生きがい)を生み出すために努力している様子を目の当たりにし,前向きで明るいイメージに変わった。
 実際に寮内を見学している際に,ある入寮者の部屋も見学させていただいたが,その部屋で暮らす男性は,刑務所の独房で過ごしていた者たちと違い,表情も穏やかで,職員の方とも気さくに話していた。また,私達修習生に対する警戒心も感じられなかった。入寮時はどのような状態であったのかは知るよしもないが,更生保護施設という環境があって彼が今の状態に至ったことを想像すると,職員の方々の取り組みは素晴らしいと感じた。私達修習生は,将来法曹三者のいずれかになるが,主に関わる仕事は「事件の処理」であり,依頼者のその後の人生に歩み寄ることは基本的にはない。しかし,法曹として,依頼者にもその後の人生があることを踏まえて,依頼者の人生をより良い方向に導くためのきっかけを与えることを意識していきたいと考えた。今後も専門家としての知見を深めることはもちろんのこと,法曹が人々に対して貢献できることが何かという大前提を常に忘れてはならないということを,改めて実感させられる非常に良い機会となった。

   雄郡寮を見学して
                 第71期司法修習生 H
 刑務所を出ても寄る辺のない人はどうするかというと,雄郡寮などの更生保護施設に入所する。日中は協力雇用主などの下で働き,寮に帰って食事や入浴を済ませると,また明日に備えてぐっすり眠るという生活だ。しかも,寮の食事はスタッフの手作りである。見学にお邪魔すると,ちょうど酢豚が出来上がったところだった。垂涎三尺。
 ところで,暑いこの夏のまだ初め頃,裁判所の執行官に同行したことがあった。家賃を滞納して契約を解除されたのに部屋を出ていかない住人を追い出し,強制的に部屋の明渡しをさせるというので,一緒に連れていってもらったのだ。執行官の手配した業者が部屋に残された荷物を運び出す中,住人だった男は,小さなバッグを手に,犬を連れて出て行った。男が頼れる先は,市役所のホームレス支援の部署ぐらいだろう。一人と一匹は,今頃どうしているのだろうか。
 でもそうなると,家賃滞納で部屋を追い出されるよりも,刑務所から出てきた方が,何だかお得に見える。刑務所から出ると,世間の風当たりが強いから,再犯防止のためにも,より厚く保護しなければならないということかもしれない。
 ただそうだとすると,今度は,雄郡寮などの更生保護施設が,その看板を掲げていることが気にかかる。看板を掲げず,そっと市井に紛れ込んだ方が,入所者がスムーズに社会復帰できそうだからである。
 そこで考えてみたのが,お遍路のことだ。
 お遍路には,菅笠と白衣,そして金剛杖というお約束のスタイルがある。そして,このスタイルで巡礼すると,お接待を受けやすい。お遍路には,様々な事情を抱えた人がいて,中には,贖罪を目的とする者もいるはずだが,そういうことは関係なく受け入れてもらえる。弘法大師の霊跡をたどって困難を乗り越えようとしているお遍路を接待することで,接待する側が功徳を積むという考え方らしい。更生保護施設も,その看板を掲げることで,入所者が社会復帰や再犯防止に向けて困難を乗り越えようとしていることを宣言し,より支援されやすい環境を整えていると言えそうだ。
 それに,入所者は,居心地が良いからといって,いつまでも寮に残ることはできないはずで,現れては去っていく身として,お遍路とよく似ている。そういう固定化されない関係の方が,損得勘定抜きの支援が得られやすいように思う。
 思い付きだけのこじつけだが,御海容願いたい。

 

 

 

2018/9/29 土曜日

盆踊りと自転車修理

Filed under: ブログ — admin @ 12:21:32

            愛媛県更生保護会施設長 松田辰夫
 去る8月19日(日)午後7時から,地元土居田町本村公園において,土居田公民館,土居田町自治会及び町内各種団体の主催による恒例の「盆踊り大会」が開催されました。
 主催者から案内を受けて,私は,当日,「平成30年度愛媛県更生保護会事業計画」事項の一つである「地域交流の積極的推進」の一環として,竹田廣見補導員及び寮生(被保護者)5人とともに参加してきました(当日現在の全寮生の数は18人でしたが,主に土木建築業に就労している者が多く,連日の猛暑のために休養を申し出る者が多かった関係からか,5人の参加にとどまりました。)。もとより,本来の目的は,後述のとおり,就労できない高年齢の寮生を地域の行事に連れ出すことにありました。なお,参加者5人のうち,66歳の寮生は,最初は遠慮していましたが,竹田補導員が「盆踊りは,御先祖様の供養のために行うのだから,御先祖様のためを思って,踊ったらどうですか。」と促したところ,喜んで参加したものです。夕暮れの近所の道路を,全員がそろって元気に,ランプが明るい光を放つ自転車に乗って出かけてきました。
 公園に到着すると,広場の真ん中に紅白の幕で飾られた大きなやぐらが建てられ,薄暗がりの中に,多数の提灯が明るくほのかに点灯されていて,あちこちにいろいろな出店のおいしそうなにおいがたちこめているなど,会場は,最高の盛り上がりを見せていました。そうした中で,「炭坑節」の音楽と太鼓に合わせて,多くの親子連れやご老人たちが輪になって楽しんで踊っており,そして,その外側をたくさんの人が取り巻いており,正に黒山の人だかりの様相を呈していました。
 さっそく寮生の一人が住民の人たちに「こんばんは。」とあいさつをすると,それに続いて他の寮生たちもあいさつを始めましたが,そうした寮生たちの礼儀正しい姿を,私は,ほのぼのとした気分で見守りながら,普段から顔見知りの土居田町自治会の方々や松山地区更生保護女性会土居田支部の皆さんに「寮生と一緒に来ましたので,よろしく願います。」とあいさつをしたほか,最近になって,高年齢の寮生の健康増進体操の指導のために来訪してくれている松山市地域包括支援センター城西・勝山地区の皆さんに出会って,思いがけない場所で思いがけなくお会いしたことをお互いに喜び合いました。
 ちなみに,これらの方々や皆さんとは,私が個人的に関係があるというのではなく,これらの方々等が当保護会の運営に何らかの形で関わってくれている関係から,あいさつを交わすことができたものです。その意味で,当保護会が,このように地域の団体・個人の方々等の間に広く交流が深まり,緊密さが保たれていることをうれしく感じつつ喜びながら,私も,竹田補導員も,寮生数人も,ともに,地域の人々の踊りの輪の中に加わって,「炭坑節」をはじめ,地元の「新雄郡音頭」や「伊予の花笠踊り」などを見よう見まねで踊りながら,地域の人々と一緒に盆踊りを楽しみました(ちなみに,当保護会には,毎月1回,更生保護女性会の皆さんが来訪され,寮生のために真心を込めて食事を作って一緒に食べるという「夕食会」を催してくれていますが,それとは全く趣を異にした大勢の,騒がしく,にぎやかな盆踊りの雰囲気の中で,参加した寮生たちは,夏の夜の開放的な気分を満喫していたようです。)。参加した寮生の一人ひとりが,それぞれ満足そうな笑顔をしていたので,恐らくは,自分たちが地域の人々に受け入れられているという安心や自信等を感じ取ったことでしょう。
 付言すれば,就労している寮生(当日の人員は13人)は,就労を通じて,雇用主,従業員,職場,地域社会等とつながることができるものの,就労できない高齢者・障害者は,とかく地域社会との関係が疎遠になりがちであるだけでなく,過去の出来事に対する感情や将来の不安等から孤立・閉鎖的になりやすいことは否めないでしょうから,私は,これら高齢者等には,地元土居田町で開催される「高齢者学級」や奉仕作業等にできるだけ参加させるように指導しています。と言うのも,当保護会を退会した後に,それぞれの地域の場で孤立化や社会不適応に陥ることがないようにさせるためには,当保護会に在会しているうちから地域社会に出向いて行って,地域に溶け込み,住民の人たちとの触れ合いを深める自信と意欲を養わせることが不可欠だからです。つまり,退会後,地域の人々との日常的な接触を通じて,「おはようございます。」,「こんにちは。」,「おつかれさまです。」,「ありがとうございます。」などの言葉を交わし,地域での行事等にも親しみながら,老後の心豊かな社会生活を送ることができるようになってほしいとの願いを込めて,意図的に意識を向けさせるために,「私と一緒に行きましょう。」とじっくりと呼びかけているのです。
 ところで,当保護会は,寮生の通勤用自転車を20台余り保有していますが,竹田補導員が,「盆踊り大会」前日の18日(土)の当直勤務中に,盆踊りに参加する寮生の使用に供するために,普段使用していない自転車5台のタイヤやランプなどの点検を行いました。すると,長らく使用していなかったこともあって,5台ともランプが故障し,チューブが損傷,摩耗して取り替える必要があることが分かったので,その後,竹田補導員が汗を流しながら解体して修理していると,買い物から帰ってきた1人の寮生が「先生,暑いのに何をやってんの。手伝おうか。」と尋ね,申し出てきました。竹田補導員が「パンクの修理をやっているの。君もできるかね。」と尋ね返したところ,「若い頃にやったことがあるので,今でもできると思う。」と言って手伝ってくれました。そうしているうちに,その後に帰ってきた2人の寮生も修理に加わろうとして,そのうちの1人が「先生,僕にもやらしてくださいよ。」と申し出たので,竹田補導員が「できるかね。」と尋ねたところ,「昔,おやじと一緒にやっていたので,多分大丈夫やろう。それに,先生にはいつもお世話になっているし,僕たちが乗る自転車を先生だけに修理させたら申し訳がないですよ。」と健気に答えてくれたので,それからというもの,職員及び寮生合わせて4人で3時間以上をかけて5台の自転車を無事に修理し終えることができました。
 この間に,私は,所用があって施設に出向いていたため,これらの様子を一部始終見ることができましたが,寮生たちの熱心な協力的活動に思わず胸がじ~んと熱くなるのを覚えました。そして,「彼らは,一人ひとりが有用な能力を持っている。それなりに仕事をし活動できる場が与えられれば,そうした能力が十分に発揮されて,立派に生きていくことができるし,いろんな人の役に立つことができる。しかし,今は,社会一般の理解と関心が乏しく,それらが閉ざされている。その閉ざされているのを何とかして開けてやるのが,私たち更生保護の仕事ではないか。」とぼんやり考え込んでいました。このような彼らの能力のことを,社会福祉の分野では,「ストレングス」と呼んでいます(「ストレングス」とは,いわゆる「強み」のことです。)。誰であれ,何らかの「ストレングス」を持っています。たとえ過去に過ちを犯した彼らであっても,持っているのです。
 なお,これら3人のうち,1人は就労しているものの,就労も何もできないやに見受けられた他の2人の高年齢の寮生が,その1人の寮生と共同して,器具及び工具を用いてタイヤを外し,チューブを引き出した後に,チューブに空気を入れて水につけ,修理箇所を特定して荒削りし,補修剤を塗布してパッチを貼り付けるなどして,最後に,チューブをタイヤに押し込んでいくといった一連の作業を次々と手際よく行っている,寮生たちの熱心な光景に,私は心を打たれ,そして大いなる感銘を受けました。
 このように,高年齢の寮生等がその持てる能力を発揮して自転車のパンク修理等をし,他の寮生の役に立てる喜びや満足を感じること(私は,このことを「自己肯定感」と呼んでいます。この「自己肯定感」を高めることは,彼らが立ち直る上で,「住居の確保」と「就労の確保」とともに必要不可欠な要因なのです。)ができたことは,今後,それぞれが自立更生を図っていく上において,極めて有用な体験となったと思われます。
 しかし,彼ら3人とも,「自転車修理」という知識と技能を身につけていても,なお,年を取ってそうした知識と技能を生かせる場がなければ,喜びや幸せを感じることはないであろうし,その日のように,久しぶりに自己肯定感や自己有用感等を感じることはなかったであろうと思われます。彼らにとって,更生保護施設という立ち直りを支える施設やそこで働いて指導援助する人々があってこそ,若い頃に身につけた能力をもう一度生かし得たことを考えると,一人ではなく,したがってまた,孤独ではない,人間的な温かい生活に親しむことができる適切な場を提供し,立ち直りに必要な指導援助を行う態勢が整えられている更生保護施設が存在することには,計り知れない大きな意味があろうかと考えられます。

 

 

 

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