2019/2/28 木曜日

司法修習生の感想文

Filed under: ブログ — admin @ 13:33:04

              愛媛県更生保護会施設長 松田辰夫
 平成24年7月に犯罪対策閣僚会議が「再犯防止に向けた総合対策」を決定しました。当時,私は,高松刑務所で処遇部長として勤務していましたが,この画期的な再犯防止対策の出現に胸を躍らせたことを今でも覚えています。しかしながら,その後,矯正とそれに続く更生保護の仕事をしていく中で,この総合対策の中の重点的な施策である「居場所」と「出番」の確保,つまり,「住居の確保」と「就労の確保」だけでは,再犯の防止は実現しないのではないか,何かが不足しているのではないかと考え続け,その結論として,私は,その不足を補うものとして,「自己肯定感」を高めるための取組を行う必要があるということに思い至りました。
 以来,私は,その取組方法を開発し実践してきました。そして,当保護会の施設長として,見学に来られる司法修習生をはじめ,保護司,更生保護女性会会員,大学生など様々な方に,再犯防止対策上の「自己肯定感」を高めることとその重要性・必要性について説明をし,理解に資するためにさらなる強調を行っている次第です。
 こうしたことから,本年1月30日(水)に見学に来られた「第72期司法修習生(第2班)」の方々に対しても,更生保護の理念や制度,施設運営の概況等について説明をし,その後に,前記の「「自己肯定感」を高めること」及びその取組についての具体的,専門的な説明をしたところ,司法修習生全員から多大な共感をしていただいた上,後日,松山地方検察庁を通じて,以下のような感想文が送付されてきましたので,その全文を掲載して,皆様方の参考に供することとします。

 そして,皆様方にも,これら司法修習生の感想文に見られるように,刑務所出所者等の立ち直りのために必要な「自己肯定感」を高めることに関する理解と関心を深めていただければ幸いに存じます。
 なお,感想文中の「雄郡寮」は,愛媛県更生保護会の通称であることを申し添えます。

 

   更生保護施設を見学して
                  第72期司法修習生 W
 1月30日水曜日,松山地方検察庁に配属中の修習生4名で,愛媛県更生保護会の保護施設「雄郡寮」を訪問させて頂きました。
 施設見学に先立ち,松田辰夫施設長から,施設の沿革や寮生の生活についてお話し頂きました。刑務官としての長年のご経験の後,「塀の中だけでは更生は実現しない」という思いから社会福祉士の資格を取得され,現職に就くに至ったという松田施設長ご自身の経歴や,施設の運営理念を伺い,日々受刑者の真の社会復帰のためには何が必要かということを批判的精神を持って考察してこられ,安全かつ安心な社会の実現への貢献をご自身の人生をもって実践してこられた松田施設長の深く温かな社会へのまなざしと強い信念に,大変感銘を受けました。
 また,施設内を見学させて頂いた際には,丁度食堂で調理員の方が夕食を作っておられ,調理員の女性の方の明るい表情や,作りたての食事の香りから,家庭的で大変穏やかで温かな雰囲気を感じました。
 松田施設長のお話のなかで,真の更生のためには「居場所」と「出番」に加えて「自己肯定感」が必要である,というお言葉が大変印象深く心に残りました。雄郡寮では寮生が多様な世代の地域住民と交流する機会が持たれており,なかでも特に,寮生が地域住民とともに農園作業に取り組むという創造的な試みは,まさしく,寮生が少しでも自己肯定感を獲得できることを目指すという施設の理念の実践であると思います。他者と共同して作業をする機会があることは,施設での生活と社会復帰後の生活の間隙を小さくし,被保護者の社会への適応を円滑化するうえで非常に本質的な意義を持つものであると感じました。
 雄郡寮におけるこうした様々な取組とその趣旨について学び,考えるなかで,個人の存在意義の自覚にとって根源的なものは,他者に必要とされている,他者に受け入れられているという実感であり,そのような実感は,規律を遵守した勤勉で清貧な生活態度だけでなく,他者との心通った交流があって初めて得ることができるものであると改めて強く認識しました。更生保護制度がいかなるものであるべきかを考えることは,究極的には人間にとっての幸福とは何であるのか,一人一人が幸福に生きることのできる社会の実現のために本質的に必要なことは何であるのかを考えることに通じるものであると感じます。そして,そのような考察の際に最も重要なことは,他者の考えや立場を尊重し,慮ることであると考えます。雄郡寮の施設運営の基調として「寄り添い,傾聴,受容」という視点が置かれているのは,他者理解の根底にあるべき精神を真摯に探求してこられた結果であると感じました。
 法曹という社会と深く関わる職に就く者として,社会に対する洞察と思索を深め,他者の心情や立場への想像を絶やすことなく,個々の事案に向き合ってゆきたいという思いを新たにしました。
 お忙しいところ,かけがえのない貴重な経験をさせて頂き,誠にありがとうございました。

 

   雄郡寮の見学により学んだこと
                  第72期司法修習生 X
 更生保護施設雄郡寮の見学を通じて,松田施設長の社会福祉への情熱と実際に更生保護施設がどのように運用されているのかを学ぶことができました。
 刑務官のご経験のある松田施設長のお話を聞き,印象に残ったことは2点あります。まず,更生保護施設は刑務所と同じく社会復帰や社会的更生を目的の一部としていますが,刑務所と異なり社会生活を営むことができることに意味があることを教えていただきました。例えばアルコール依存症の人がいる場合,強制的にアルコールを窃取できない環境とすれば摂取することはなくなります。ただし,強制的に更生できたとしてもその環境の外へ出た時に再びアルコール依存となる危険があります。一方,更生保護施設は社会の中で一般の方と同じように生活するため,アルコールが自由に手に入ります。更生保護施設は無理矢理依存対象を奪うのではなく,アルコール依存防止教育や施設の職員との生活の共同により,社会生活の中で依存対象と共存できるよう更生を促すことを教えていただきました。松田施設長のお話の中で強制することのない社会福祉のあり方を教えていただきました。
 二つ目として,施設利用者の再犯の防止のために自己肯定感を芽生えさせることを大事にしていることを教えていただきました。施設利用者は少なからず社会から常に偏見の目で見られており,その偏見が社会復帰への壁になるそうです。その社会復帰への壁を越えることができず,再犯をしてしまう人がいるということを教えていただきました。松田施設長は福祉の視点に立つ更生保護を実現するため,施設利用者の話を傾聴し,同じ目線で話を聞くことを大事にしているそうです。その中で施設利用者が社会に何を求めているのか,どのように役に立ちたいのかを一生懸命聞き,共に行動に移すことで利用者の自己肯定感を育むそうです。自己肯定感が芽生えることにより社会の一員であることを実感し,社会の役に立っているという気持ちが再犯の防止へと繋がっていることを学びました。
 最後に雄郡寮の中を見学し,利用者の方の生活環境を知ることができました。寮内はとても綺麗で生活しやすい様な印象でした。また喫煙スペースや談話コーナー,地域交流室等があり,施設の中で生活するだけではなく社会とのつながりを持つための環境が整っているように感じました。
 雄郡寮の見学を通じ,施設利用者の更生のために社会との繋がりを大事にしていることを知ることができました。このような貴重な機会をいただきましたことを非常に感謝しています。

 

   更生保護施設を見学して
                  第72期司法修習生 Y
 平成31年1月30日(水),更生保護施設を見学させていただいた。
 更生保護施設は「雄郡寮」という名前で,松山市の土居田町にある。雄郡寮は,犯罪を犯してしまった者達が更生できるように,居所,食事,生活,就労支援等を無料で支援する施設である。そうすることで,再犯の予防に繋がり,個人及び公共の福祉を増進するという,更生保護の目的の達成を促進する役割を担っている。そこには,見学当時,17人の罪を犯してしまった者や非行少年らが暮らしていた。
 私達が施設に到着すると,施設長の松田辰夫さんが迎えてくれた。そして,松田さんから,雄郡寮や更生保護についての説明があった。その際に松田さんが「偏見で人は崩れる,交流で人は変わる。」と仰っていたのがとても印象的だった。
 また,同施設では,地域のイベント参加や,菜園活動など,積極的に地域社会との交流をしているとのことだった。何らかの理由で地域社会の外に出てしまった者達が,地域社会の人の協力によって,また地域社会に復帰するというのは,とても素晴らしいことだと感銘を受けた。
 松田さんの説明の後,施設を案内して頂いた。まず始めに,食堂を見せて頂き,その後に居室,浴場,洗濯場,休憩スペース,地域交流室に案内して頂いた。施設内はとても新しく綺麗で,清潔感があった。また,各部屋にテレビがあったり,漫画なども置かれていたりして,生活感があった。社会内での更生という目的から,一般的な暮らしとの齟齬が少ないように工夫しているんだなと感じた。
 わたしは,犯罪者の再犯率はとても高いと聞いたことがあった。そのため私は,更生保護の制度が不十分でないかと思っていた。現場のサポートが足りないのではないかと考えることもあった。しかし,施設を見学してみると,施設長の松田さんは本当に熱心に更生保護を受ける者達のことを考えておられたし,更生保護を受ける者達も,挨拶を交わすなど,温和な印象を受けた。この人達が再犯に走るだろうとは微塵も感じなかった。
 他方で,このような手厚いサポートがあり,深く反省して更生を目指しながらも,また再犯をしてしまう人が常にいるのは何故だろうと,疑問が深まった。この点に関しては,更生保護の制度だけではなく,教育制度,医療制度,刑事政策などの諸制度も深く関わって,1つの制度だけが上手く運用できても,解決しない問題なのかもしれない。
 そして,見学を通して,私自身にも,罪を犯した者達に対する偏見が,無意識のうちにあったかも知れないと思った。そのような一人一人の無意識が,更生を妨げるのかもしれない。
 「偏見で人は崩れる,交流で人は変わる。」帰りの車の中で,その言葉のことをずっと考えていた。
 松田さんを始めとする,更生保護施設の見学にご協力,ご支援頂いた方々に感謝致します。

 

   雄郡寮を見学して
                  第72期司法修習生 Z
 このたびは,お忙しい中,大変親切なご案内ご説明を頂戴しながら,雄郡寮を見学させていただき誠にありがとうございました。
 見学をさせていただき,日々の施設運営と取組をされる重要性と責任とを心に刻ませていただきました。
 私が,学んでいた大学の施設と同じ建物に,更生保護施設があったこともあり,更生保護施設自体は身近に思っていましたが,その中を見学させていただいたことは初めての経験であり,とても勉強をさせていただきました。
 施設長のこれまでの様々な高齢受刑者や福祉を要する受刑者に対する施策を実施されてきたご経験を伺い,お年を召された方や,障がいをもたれている方が施設や地域等で生活していこうとするにあたって,直面される苦労や壁を知りました。
 また,雄郡寮の役割として社会における居場所や出番の他に,自己肯定感が必要であると伺ったことや地域の祭りにおいて太鼓を演奏し拍手喝采を受けた寮生のエピソードに,大変感銘を受けました。
 入寮以前の生活において不足しがちであったかもしれない自己肯定感,すなわち,人間の生命維持のための欲求であるとか経済的な損得を超えた,他者に対して自分が役に立っているという認知を求めようとする心理のことをプラトンは気概と呼びましたが,そのような気概を育むとともに,そのような気持ちをもって一日一日を努力していけば,報われるところがあることを体感することができる学び舎として,雄郡寮はすばらしい場所であると思っております。
 施設の点でも,あたたかな食堂や,寮生同士,あるいは地域の方々と触れ合うことのできるホールや畑があり,人の点でも,訪問させていただいた際,寮生の方に挨拶をいただいたり,事務室の方と話し込んでおられたりという家庭的な環境や更生保護女性会の方や寿会を始めとする皆様が温かく寮生を包み込んでくださる環境があるように拝見しました。このような環境があってこそ,寮生の方々の更生や生活の安定が実現されてゆくことを,実感致しました。
 今回見学させていただいた体験を,今後,法曹として活動してゆくにあたって,最大限生かしていきたいと考えております。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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