2018/9/29 土曜日

盆踊りと自転車修理

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            愛媛県更生保護会施設長 松田辰夫
 去る8月19日(日)午後7時から,地元土居田町本村公園において,土居田公民館,土居田町自治会及び町内各種団体の主催による恒例の「盆踊り大会」が開催されました。
 主催者から案内を受けて,私は,当日,「平成30年度愛媛県更生保護会事業計画」事項の一つである「地域交流の積極的推進」の一環として,竹田廣見補導員及び寮生(被保護者)5人とともに参加してきました(当日現在の全寮生の数は18人でしたが,主に土木建築業に就労している者が多く,連日の猛暑のために休養を申し出る者が多かった関係からか,5人の参加にとどまりました。)。もとより,本来の目的は,後述のとおり,就労できない高年齢の寮生を地域の行事に連れ出すことにありました。なお,参加者5人のうち,66歳の寮生は,最初は遠慮していましたが,竹田補導員が「盆踊りは,御先祖様の供養のために行うのだから,御先祖様のためを思って,踊ったらどうですか。」と促したところ,喜んで参加したものです。夕暮れの近所の道路を,全員がそろって元気に,ランプが明るい光を放つ自転車に乗って出かけてきました。
 公園に到着すると,広場の真ん中に紅白の幕で飾られた大きなやぐらが建てられ,薄暗がりの中に,多数の提灯が明るくほのかに点灯されていて,あちこちにいろいろな出店のおいしそうなにおいがたちこめているなど,会場は,最高の盛り上がりを見せていました。そうした中で,「炭坑節」の音楽と太鼓に合わせて,多くの親子連れやご老人たちが輪になって楽しんで踊っており,そして,その外側をたくさんの人が取り巻いており,正に黒山の人だかりの様相を呈していました。
 さっそく寮生の一人が住民の人たちに「こんばんは。」とあいさつをすると,それに続いて他の寮生たちもあいさつを始めましたが,そうした寮生たちの礼儀正しい姿を,私は,ほのぼのとした気分で見守りながら,普段から顔見知りの土居田町自治会の方々や松山地区更生保護女性会土居田支部の皆さんに「寮生と一緒に来ましたので,よろしく願います。」とあいさつをしたほか,最近になって,高年齢の寮生の健康増進体操の指導のために来訪してくれている松山市地域包括支援センター城西・勝山地区の皆さんに出会って,思いがけない場所で思いがけなくお会いしたことをお互いに喜び合いました。
 ちなみに,これらの方々や皆さんとは,私が個人的に関係があるというのではなく,これらの方々等が当保護会の運営に何らかの形で関わってくれている関係から,あいさつを交わすことができたものです。その意味で,当保護会が,このように地域の団体・個人の方々等の間に広く交流が深まり,緊密さが保たれていることをうれしく感じつつ喜びながら,私も,竹田補導員も,寮生数人も,ともに,地域の人々の踊りの輪の中に加わって,「炭坑節」をはじめ,地元の「新雄郡音頭」や「伊予の花笠踊り」などを見よう見まねで踊りながら,地域の人々と一緒に盆踊りを楽しみました(ちなみに,当保護会には,毎月1回,更生保護女性会の皆さんが来訪され,寮生のために真心を込めて食事を作って一緒に食べるという「夕食会」を催してくれていますが,それとは全く趣を異にした大勢の,騒がしく,にぎやかな盆踊りの雰囲気の中で,参加した寮生たちは,夏の夜の開放的な気分を満喫していたようです。)。参加した寮生の一人ひとりが,それぞれ満足そうな笑顔をしていたので,恐らくは,自分たちが地域の人々に受け入れられているという安心や自信等を感じ取ったことでしょう。
 付言すれば,就労している寮生(当日の人員は13人)は,就労を通じて,雇用主,従業員,職場,地域社会等とつながることができるものの,就労できない高齢者・障害者は,とかく地域社会との関係が疎遠になりがちであるだけでなく,過去の出来事に対する感情や将来の不安等から孤立・閉鎖的になりやすいことは否めないでしょうから,私は,これら高齢者等には,地元土居田町で開催される「高齢者学級」や奉仕作業等にできるだけ参加させるように指導しています。と言うのも,当保護会を退会した後に,それぞれの地域の場で孤立化や社会不適応に陥ることがないようにさせるためには,当保護会に在会しているうちから地域社会に出向いて行って,地域に溶け込み,住民の人たちとの触れ合いを深める自信と意欲を養わせることが不可欠だからです。つまり,退会後,地域の人々との日常的な接触を通じて,「おはようございます。」,「こんにちは。」,「おつかれさまです。」,「ありがとうございます。」などの言葉を交わし,地域での行事等にも親しみながら,老後の心豊かな社会生活を送ることができるようになってほしいとの願いを込めて,意図的に意識を向けさせるために,「私と一緒に行きましょう。」とじっくりと呼びかけているのです。
 ところで,当保護会は,寮生の通勤用自転車を20台余り保有していますが,竹田補導員が,「盆踊り大会」前日の18日(土)の当直勤務中に,盆踊りに参加する寮生の使用に供するために,普段使用していない自転車5台のタイヤやランプなどの点検を行いました。すると,長らく使用していなかったこともあって,5台ともランプが故障し,チューブが損傷,摩耗して取り替える必要があることが分かったので,その後,竹田補導員が汗を流しながら解体して修理していると,買い物から帰ってきた1人の寮生が「先生,暑いのに何をやってんの。手伝おうか。」と尋ね,申し出てきました。竹田補導員が「パンクの修理をやっているの。君もできるかね。」と尋ね返したところ,「若い頃にやったことがあるので,今でもできると思う。」と言って手伝ってくれました。そうしているうちに,その後に帰ってきた2人の寮生も修理に加わろうとして,そのうちの1人が「先生,僕にもやらしてくださいよ。」と申し出たので,竹田補導員が「できるかね。」と尋ねたところ,「昔,おやじと一緒にやっていたので,多分大丈夫やろう。それに,先生にはいつもお世話になっているし,僕たちが乗る自転車を先生だけに修理させたら申し訳がないですよ。」と健気に答えてくれたので,それからというもの,職員及び寮生合わせて4人で3時間以上をかけて5台の自転車を無事に修理し終えることができました。
 この間に,私は,所用があって施設に出向いていたため,これらの様子を一部始終見ることができましたが,寮生たちの熱心な協力的活動に思わず胸がじ~んと熱くなるのを覚えました。そして,「彼らは,一人ひとりが有用な能力を持っている。それなりに仕事をし活動できる場が与えられれば,そうした能力が十分に発揮されて,立派に生きていくことができるし,いろんな人の役に立つことができる。しかし,今は,社会一般の理解と関心が乏しく,それらが閉ざされている。その閉ざされているのを何とかして開けてやるのが,私たち更生保護の仕事ではないか。」とぼんやり考え込んでいました。このような彼らの能力のことを,社会福祉の分野では,「ストレングス」と呼んでいます(「ストレングス」とは,いわゆる「強み」のことです。)。誰であれ,何らかの「ストレングス」を持っています。たとえ過去に過ちを犯した彼らであっても,持っているのです。
 なお,これら3人のうち,1人は就労しているものの,就労も何もできないやに見受けられた他の2人の高年齢の寮生が,その1人の寮生と共同して,器具及び工具を用いてタイヤを外し,チューブを引き出した後に,チューブに空気を入れて水につけ,修理箇所を特定して荒削りし,補修剤を塗布してパッチを貼り付けるなどして,最後に,チューブをタイヤに押し込んでいくといった一連の作業を次々と手際よく行っている,寮生たちの熱心な光景に,私は心を打たれ,そして大いなる感銘を受けました。
 このように,高年齢の寮生等がその持てる能力を発揮して自転車のパンク修理等をし,他の寮生の役に立てる喜びや満足を感じること(私は,このことを「自己肯定感」と呼んでいます。この「自己肯定感」を高めることは,彼らが立ち直る上で,「住居の確保」と「就労の確保」とともに必要不可欠な要因なのです。)ができたことは,今後,それぞれが自立更生を図っていく上において,極めて有用な体験となったと思われます。
 しかし,彼ら3人とも,「自転車修理」という知識と技能を身につけていても,なお,年を取ってそうした知識と技能を生かせる場がなければ,喜びや幸せを感じることはないであろうし,その日のように,久しぶりに自己肯定感や自己有用感等を感じることはなかったであろうと思われます。彼らにとって,更生保護施設という立ち直りを支える施設やそこで働いて指導援助する人々があってこそ,若い頃に身につけた能力をもう一度生かし得たことを考えると,一人ではなく,したがってまた,孤独ではない,人間的な温かい生活に親しむことができる適切な場を提供し,立ち直りに必要な指導援助を行う態勢が整えられている更生保護施設が存在することには,計り知れない大きな意味があろうかと考えられます。

 

 

 

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