2018/8/7 火曜日

司法修習生の感想文

Filed under: ブログ — admin @ 14:31:27

                愛媛県更生保護会施設長 松田辰夫
 本年5月23日(水),愛媛県更生保護会において司法修習生4人による施設見学が行われましたが,見学後,彼らから感想文が提出されましたので,以下,その全文を掲載することにします。
 これらの感想文では,将来の裁判官,検察官,弁護士になる道を歩んでいる司法修習生が,更生保護の実際及び更生保護施設の運営等に関する私の説明を聴き,また,被保護者の生活の場や生活の各場面などを見て,専門的な見地から幅広く感想を述べていますが,こうした,この度の施設見学が,彼らの更生保護についての関心を高め,刑事司法の分野の総仕上げとも言うべき最後の段階である更生保護の重要性及び必要性についての理解を深めるために何程かの寄与をなし得たとすれば,望外の幸いです。
 なお,感想文中の「雄郡寮」は,愛媛県更生保護会の通称であることを申し添えます。

 

   更生保護施設を見学して
                     第71期司法修習生 O
 更生保護施設を見学した第一印象は,とても綺麗な建物だな,というもので,唐傘のような屋根の扇形の建物が一際目を引きました。そして,実はこの扇形の建物が,入所者の社会復帰において重要な役割を担っているということを,後の説明を受けて知りました。
 平成19年に施設の全面改築が行われたということもあり,建物自体も綺麗なのですが,建物の中も手入れが行き届いており,とても綺麗でした。施設長のお話では,毎日入所者が廊下やお風呂まで綺麗に掃除しているとのことでした。私も忙しくて疲れていることを理由に掃除をしていないでいると,部屋だけでなく次第に心まで淀んでいくような気がします。そのため,健全な精神を保つには,綺麗な生活空間の確保はとても大切なことだと思いました。
 そして,社会復帰のためには規則正しい生活が不可欠であるという話は以前から聞いていましたが,入所者の朝がごみの分別から始まるということは印象的でした。更生保護施設は社会復帰を目的とするものであり,そのためには地域住民との交流を図り,地域に受け入れられる必要があるそうです。それにもかかわらず,ごみの分別ができないと,地域住民からの苦情につながり,地域住民との交流及びその地域での生活が困難となる結果,社会復帰という目的を達成することができなくなるとのことでした。こうした些細な問題でも,社会復帰には大きな弊害となることに気付かされました。
 また,扇形の建物が地域交流室となっており,地域住民がカラオケやダンスに使用することで,地域住民と入所者との交流の場となっていました。このような施設がなければなかなか地域住民と入所者との交流のきっかけを作ることは難しいと思うので,入所者の更生という目的達成を目指す中で,この建物が果たす役割は大きいのだなと思いました。
 施設長のお言葉で最も印象に残っているのは,「自己肯定感」という言葉です。犯罪や非行をした多くの人たちは,自分の人生において否定され続け,褒められたという経験が少ないようです。そのため,自暴自棄になり,犯罪を犯してしまうことにつながりかねないようです。このような犯罪のサイクルを断ち切るには,根本的な自己を肯定するという認識を持つことが不可欠であり,その第一歩になるのが,地域住民から排除されず,地域住民の一員として共に生活していくという地域住民との交流であるとのことでした。長年他人から否定され続けてきた人が,人との関わりをもとうと思うこと,実際に人との交流をもつことはとても勇気が必要で,難しいことだろうと思います。それでも,地域住民との交流を図り,良好な関係を保てているのは,施設の方々が熱意を持って入所者と向き合い,信頼関係を築こうとして下さっていることが大きな要因ではないかと思いました。
 更生保護施設のように,社会福祉に関する事業は,社会において大きな使命を担っている反面,資金難に直面することも多く,見返りも少ないことから,とても大変な仕事だと思います。そのような困難な事情が多い中で,再犯防止という大きな目標を掲げ,熱意を持って取り組んでいらっしゃる施設長をはじめ,施設の方々の思いは本当に尊いものであると感じました。
 私達が法律の勉強をする中で,最終的にどのような処分が適切であるか,という処分をするまでの話を考えるばかりで,処分を受けた後にどのような生活をすることになるのかという処分後の流れを忘れがちでした。そのため,今回の更生保護施設の見学をさせていただいたことで,刑罰の目的の1つである再犯防止という目的を達成するためには,単に処分をしただけでは不十分であり,処分を終えた後にどのような社会復帰の支援を行えるかということこそが,再犯防止につながるか否かの重要な分かれ目になるということを学びました。
 過ちを犯した人が,もう一度善良な市民としてやり直せる社会を実現するためには,施設長をはじめとした施設の方々のように,個人の個性を大切にしつつ,一人一人と向かい合い,熱意を持って社会復帰の支援に取り組んで下さる人材が必要不可欠であることを改めて実感しました。私もこのように熱い心をもって社会貢献できるような人材になりたいなと思いました。
 今回は貴重な体験をさせていただきまして,本当にありがとうございました。

 

   更生保護施設を見学して
                     第71期司法修習生 P
 刑法や刑事訴訟法を勉強したとはいえ,そこで華々しい議論が展開されるのは裁判所による判決までであり,判決された刑がどのように執行されるのかにスポットを当てて勉強することは少ない。まして,執行猶予や仮釈放などにより社会復帰した後のことなど,これまで勉強する機会がなかった。ぼんやりと,更生には就職して安定した収入を得ることが大事なんだろうといったイメージを持っているに過ぎなかった。
 しかし,施設長のお話を聞いて,そのイメージは2つの意味で不正確であることを学んだ。まず,就職が大事なのは,安定した収入を得ることもさることながら,自らの居場所や出番を得ることで,人の役に立っているという感覚を持つためでもある。そして,他方で,そのような自己肯定感は,就職が困難であっても行事や地域での活動など様々な場面で得ることができるものである。施設長のお話に出てきた例の中では,太鼓のパフォーマンスでその才覚を発揮して地域で活躍する術を見出した入所者の逸話が印象的であった。そうすると,更生は就職のみを終着点とする単一の道ではなく,人によって終着点の異なる多様な道であり,適切な経路を選択するにはその人の好みや得意とすることなど,まさに生き様を理解する必要がある。今までの更生に対する考え方が根本的に変わると同時に,その難しさに驚いた。
 雄郡寮内を見学させていただき気付いたのは,周辺の住宅との近さであった。居室や共有スペースの窓からは周辺の住宅を間近に見ることができ,おそらく住宅からも雄郡寮が間近に見えることだろう。このようなことが可能なのも,地域住民の方々の理解の賜物であり,そしてその理解は雄郡寮の職員の方や歴代の入所者の方が地域に溶け込んでいこうと努力したおかげだろうと推測する。地域住民と雄郡寮の職員や入所者の間に,相互に信頼関係があってのことであろう。
 雄郡寮の職員の方々が入所者に支援している事柄は,「つなぐ」という言葉に表せるように思われる。それは就職支援により入所者と職場とをつなぐことに限られず,例えば行政サービスの申請などを手助けすることで行政とつなぎ,地域行事や地域交流により地域住民とつなぐ等々である。それも,むやみやたらにつなげば良いというわけではなく,その人の個性を見極めて適切につないでいく必要がある。自分は見学を通して,一度は切れたしまった血管同士を丁寧につないでいく手術を連想した。手術で病変部を取り除いた後には止血して縫合する作業が欠かせない。同様に,犯罪を検挙した後も,更生を支援して社会とつなぐことが欠かさず重要であることを学んだ。今後法曹となるにあたり,後者の視点を忘れないようにしたい。

 

   更生保護施設を見学して
                     第71期司法修習生 Q
 先日,検察修習の一環として,更生保護施設「雄郡寮」を見学する機会をいただいた。施設長が,読書をしている入所者に「読書しているの?すごいね!」と声をかけられていた。いいところを褒める,それが自己肯定感につながるのだろうと思った。
 再犯率の低減には,社会における「居場所」と「出番」が必要だとされるが,それにプラスして「自己肯定感」が必要だと強調しておられた。雄郡寮では「居場所」としての住居や社会とのつながり,「出番」としての就労や地域奉仕活動を提供・サポートし,同時に「自己肯定感」が育まれるよう,ガレージセールや施設の一部開放を通じての,地域社会に受け容れられる体制づくりに工夫がされている。
 また,スタッフの方々の勉強熱心さにも感銘を受けた。入所者の20%が高齢者,13%が知的障がい者であることから,その特性に応じた支援が必要になるが,外部の専門家から講習を受けたり,施設長ご自身が社会福祉士の資格を保持したりすることによって,要請に応えようと努力されている。
 訪問の少し前に,松山刑務所大井造船作業所から受刑者が脱走する事件があった。施設長は「信頼してこそ立ち直らせることができる。バリアフリーマインドをなくしてはいけない。」と言及されていた。これまでの自分であったら、ニュースのセンセーショナルな取り上げられ方から,塀をつくることもやむを得ないと単純に考えたかもしれない。社会に信頼されること,必要とされることは,犯罪をした人だけに必要なことではない。社会全体として,常に考えていく問題だと強く感じる貴重な機会をいただいた。

 

   更生保護施設を見学して感じたこと
                     第71期司法修習生 R
 まず,私は,更生保護の制度を今回修習で勉強するまで,詳しく知らなかった。保護観察という制度があるということしか知らず,その具体的な内容については全く知らなかった。今回,「雄郡寮」を見学する前に,更生保護制度の重要な点についての講義と保護司及び保護観察官の人たちとの座談会が行われた。これら一連の話を通して,更生保護制度がどのようなもので,どのように運用されているのかについてその一端を知ることができた。更生保護施設を見学する前に,更生保護制度がどのようなものかについて少しでも分かった状態で見学することができて,非常に有意義だった。
 これらの話の後に,松山市にある更生保護施設「雄郡寮」の見学に向かった。「雄郡寮」は,住宅地のど真ん中にあった。今回の更生保護施設の見学に先立って,松山刑務所の見学を行っていた。松山刑務所は,松山市に隣接する東温市にあった。刑務所の近くに住宅はあったが,「雄郡寮」のように,住宅地のど真ん中にあるわけではない。刑務所は,住宅地からは,多少離れた場所にあった。それと比べると,「雄郡寮」は,本当に松山市の住宅密集地のど真ん中にある。周りの住宅に溶け込んで存在していた。まず,そこに,驚きを感じた。私は,更生保護施設も松山刑務所のように住宅地からは少し離れた場所にあると思っていたからである。
 「雄郡寮」では,施設長の方から説明を受けた。その中で,「雄郡寮」は,地域に開かれた施設であるという説明を受けた。実際に,施設の一部屋を地域の住民の人たちが様々な活動に利用しているという説明も受けた。また,「雄郡寮」に入所している人たちも積極的に地域の行事に参加をしているという説明も受けた。これにも,私は,驚きを感じた。今回の見学を行うまでは,更生保護施設では,入所者に,衣食住が与えられ,そこから,仕事に通い,決められた期間を迎えたら,施設から出て行くというものだと思っていた。だが,実際は,全く違っていた。衣食住は,あるわけだが,地域と完全に開いた関係にあり,入所者も積極的に地域と関わっている。その中で,自分の仕事をしたり,仕事を探したりしている。地域との交流を行い,規則正しい生活を行い,自分の仕事だったり,自分のやりがいのあることを見つけて,社会に戻っていく。「雄郡寮」では,このような活動が行われていた。
 以前の自分が考えていたような閉鎖的な環境では,社会に戻ってきたときに,様々な困難が生じてしまい,悪い場合だと,再び,犯罪を行ってしまうことにもなりかねない。社会は,開かれた開放的な環境である。閉鎖的な中からいきなり開放的なところへ行ってしまうと,対応ができないかもしれない。そんな問題が発生する可能性を少しでもゼロに近付ける。そのためには,「雄郡寮」のように,開かれた環境であることは,とても大事なのかもしれない。施設の中で,出会った入所者の方たちは,皆,生き生きしているように思えた。
 以上,とりとめのないようだが,更生保護施設を見学しての感想である。

 

 

 

 

 

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